「あ」
「あれ」
陽も落ちたグラウンドに、落ちているもの影ひとつ。
拾得物は、後輩。
「…本さん。ちわす」
「よ、どうした」
汗かシャワーか水道水か、湿った髪がくるりくるりと自由気ままに。たぶん気持ちと裏腹に。
「本さんは、今帰りですか」
「うん。お勉強してました」
「お疲れっす」
「お互いね。つーか迅さ、腹減ってない?」
「は?」
「まあ減ってないわけないか、部活後に」
「はあ、まあ」
「じゃあこれあげる」
どうぞと差し出す惣菜パンは幾分かよれて不恰好だが、不恰好には不恰好が相応しい。
「え、でも本さんのじゃ」
「気にしない気にしない」
「えと…じゃ、どうも、ありがとうございます」
小さく下げた頭の上遥か、消えそうに瞬く星、また星。
「うん。それを食べたらね、ちゃんとおうちに帰るんだよ」
「は、」
「そんでめいっぱい食って風呂入って死んだように眠れば、明日がくるからね」
「…ええー、と…」
「まあつまりさ、」
こんなことは言われたくないかもしれないけれども。
「元気出せよということだ」
人気のないグラウンドひとり佇む胸のうち、わからぬ者などあるだろうか。
かつて己も通った道を。
この愛しき不恰好。
笑って別れて、また明日会いましょう。
わたしは迅と裕史に夢を見すぎている。
わたしは迅と裕史に夢を見すぎている。
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