朝練後、教室に向かいとろとろと歩いていると、もとさんもとさんもとさんもとさん!ときゃんきゃんと形容するしかない2種類の声に己の愛称を連呼されて、足を止めた。
「もとさんダイスキ!」
「利央なんかよりよっぽど好きッスもとさん!」
「ええっ…」
極めて短いコントのような告白のような宣言をして、ふたりは駆け寄ってきた勢いそのままに走り去る。ふたり仲良く授業の準備がまったくできていないらしく、同級生の名前を叫びながらばたばたと小さくなっていった。
走りながらも顔だけ振り向き続けたところには、俺たちお金なくてゴメンナサイ!どうぞ慎吾さんにたかってください!ということだそうで、傍らの山ノ井がのんびり笑う。
「もてもてですねえ」
「おかげさまでねえ」
誕生日ってこういうものだったかなあと仰ぐ空は青く青く丸くすてきで思わずいい天気だなと言葉がこぼれた。
「そりゃ裕史くんのお誕生日だから晴れてるんだよ」
「それ雨だったら恵みの雨だよって言ってたでしょ」
年相応に元気よく盛り上がりを見せてお祝いするのもいいけれども
「あ、誕生日だねおめでとう」ぐらいの平穏さも、好きだ。
「あ、誕生日だねおめでとう」ぐらいの平穏さも、好きだ。
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ある日あるとき、ふっと心にほのかな光が舞い降りた。
「縦割りで組み分けをする行事があったと考えろ」
思わず身も乗り出すという大発見。
しかし主将は失礼にも、うお、と低く呻いて島崎が乗り出したぶんだけ身をひいた。
「我が校にチーム縦割りの行事があったと仮定しろ」
「縦割りぃ…?つか口調きもいぞおまえ」
いつもならば、きもいなどと言うほうがきもいのだと言い返すところだが、今日のところは聞き流す。
「俺は6組でおまえも6組だ。そして、まあここは仮にレギュラーで考えろ。レギュラーん中で6組の後輩は誰だかわかるか」
「あー…おまえの言いたいことは、わかった」
「ほんとにわかってんのかおまえは!迅だけだぞ!準太も利央もいない、迅だけなんだぞ!あのよいこナンバーワンの迅だけ!なんて平穏!夢のようだ!なあ和己!」
「そしたら山ちゃんと本やんのとこに準太と利央だなあ」
「そんな波乱の塊みたいな事実は聞きたくない」
想像の自チームの平穏さよりも、乗り込んでくるであろう奴らのもたらす騒動が今にも我が身に降りかかりそうなこの予感。
耳にすべりこんでくるこの聞きなれすぎた声よどうか空耳であれ。
気づいたときのわたしの衝撃ったらない。
自分の仮定にはしゃぐ島崎17歳。
後輩のクラスを覚えているのは愛ゆえだ。
自分の仮定にはしゃぐ島崎17歳。
後輩のクラスを覚えているのは愛ゆえだ。
「副部長さま副部長さまお願いがあるんです」
わりと常日頃から小芝居を披露しているコンビの片割れがそう言うので、
「んん、何かな。なんでも言ってみなさい」
もう片方も軽く返した放課後も放課後、部活のおわり。
部室の人口密度もそこそこ安定、呼吸がしやすい。
「俺はほんとに嫌なんです本気で嫌なんです」
「え、どしたの本やん慎吾にいじめられた?セクハラされた?」
慎吾ぐらいじゃめげないよとつぶやく本山に俺の本気はすげえぞこらと半ば本気な島崎の声。それをさらりと聞き流し、
「………部室が汚いんです」
神妙な顔で訴える。
「………は?」
「そろそろあいつが出てくるレベルの汚さなんです。ていうかすでに気配を感じるんです」
「あー…それはゴで始まったりする」
こっくり頷きがっくりうなだれ肩振るわせる勢いで、なんで誰も気にしないのと。
「………本やん」
「なんでしょうか」
「………すき」
「はあ?」
首を傾げる友をよそに、ぱん、と手を打ち副部長の大号令。
「よしみんな本やんのためにロッカー片付けて!特にそこのイケメンふたり!本やんが好きなら食いかけのものは全部処分!慎吾はホイホイ的なもの設置!」
「…なんで俺がホイホイ持ってると思われてるのか聞きたいんだけどキャプテン」
「あ、俺もそろそろかと思ってマネジに買っといてもらったぞ」
「…ドーモ」
わりと常日頃から小芝居を披露しているコンビの片割れがそう言うので、
「んん、何かな。なんでも言ってみなさい」
もう片方も軽く返した放課後も放課後、部活のおわり。
部室の人口密度もそこそこ安定、呼吸がしやすい。
「俺はほんとに嫌なんです本気で嫌なんです」
「え、どしたの本やん慎吾にいじめられた?セクハラされた?」
慎吾ぐらいじゃめげないよとつぶやく本山に俺の本気はすげえぞこらと半ば本気な島崎の声。それをさらりと聞き流し、
「………部室が汚いんです」
神妙な顔で訴える。
「………は?」
「そろそろあいつが出てくるレベルの汚さなんです。ていうかすでに気配を感じるんです」
「あー…それはゴで始まったりする」
こっくり頷きがっくりうなだれ肩振るわせる勢いで、なんで誰も気にしないのと。
「………本やん」
「なんでしょうか」
「………すき」
「はあ?」
首を傾げる友をよそに、ぱん、と手を打ち副部長の大号令。
「よしみんな本やんのためにロッカー片付けて!特にそこのイケメンふたり!本やんが好きなら食いかけのものは全部処分!慎吾はホイホイ的なもの設置!」
「…なんで俺がホイホイ持ってると思われてるのか聞きたいんだけどキャプテン」
「あ、俺もそろそろかと思ってマネジに買っといてもらったぞ」
「…ドーモ」
ゴキが嫌いなんではなく嫌な裕史。一番最初に部室の限界を感じ取る。
他のひとらもそろそろやべえかなとは思い始めてるがいつも裕史が一歩早い。
汚れツートップは準太と利央。
慎吾さんは気持悪く整理整頓裕史はいらないものはない程度に片付いてる。
以下同列ぐらいでタケはなぜか準太のもが入ってるちょうメイワク。
他のひとらもそろそろやべえかなとは思い始めてるがいつも裕史が一歩早い。
汚れツートップは準太と利央。
慎吾さんは気持悪く整理整頓裕史はいらないものはない程度に片付いてる。
以下同列ぐらいでタケはなぜか準太のもが入ってるちょうメイワク。
ふたつの2番にはさまれている。
準太の誕生日はキャッチ命みたいな日付だよねと本山裕史が言ったので、幸か不幸かふたりのキャッチを経験しなければならない準太はそこのところをどう思っているのだろうかと俺はわざわざ1階下の彼のもとまで訪ねていきました。
「やっぱ和のが大事なの?」
すると準太は、
「どっちも大事に決まってます」
つまらなそうにそう言うので、こいつは心底ふたりの捕手を、あいしているのだなあと、俺という山ノ井圭輔は思ったのでした。
そして今日は何の日でしょうと大きな掌をさしだされたので、愛をこめて握りかえしておきました。
非常に不満そうな顔をされました。
かわいい後輩だと思います。
(………授業中にこんなメールをもらった俺はどうしたらいいんだ…)
タケさんだったらどうしますかと、1年6組から怪電波が飛ばされる本日2月2日、微風ながらもいたって快晴。
準太の誕生日はキャッチ命みたいな日付だよねと本山裕史が言ったので、幸か不幸かふたりのキャッチを経験しなければならない準太はそこのところをどう思っているのだろうかと俺はわざわざ1階下の彼のもとまで訪ねていきました。
「やっぱ和のが大事なの?」
すると準太は、
「どっちも大事に決まってます」
つまらなそうにそう言うので、こいつは心底ふたりの捕手を、あいしているのだなあと、俺という山ノ井圭輔は思ったのでした。
そして今日は何の日でしょうと大きな掌をさしだされたので、愛をこめて握りかえしておきました。
非常に不満そうな顔をされました。
かわいい後輩だと思います。
(………授業中にこんなメールをもらった俺はどうしたらいいんだ…)
タケさんだったらどうしますかと、1年6組から怪電波が飛ばされる本日2月2日、微風ながらもいたって快晴。
2は和さんと利央と、準太のものさ。
準さんは本音をいうときはぶっきらぼうというか無愛想なんじゃないかと睨んでいる。
もしくは照れ隠しでへらへらしながら言うと思う。
先輩後輩同級生で使いわけ。
準太って、かわいいやつだな…!
準さんは本音をいうときはぶっきらぼうというか無愛想なんじゃないかと睨んでいる。
もしくは照れ隠しでへらへらしながら言うと思う。
先輩後輩同級生で使いわけ。
準太って、かわいいやつだな…!
薄い桃色と言おうか淡い桜色と言おうか、ようするにそれは。
「オカシイ!」
握るパンからソースが飛び散り、今度は何だと集まる視線。ソース拭けよと誰かがつぶやく。
しかし利央が問いただしたい本人達は、聞いているのかいないのかいや片方は確実に聞いていないがとにかく箸を動かす手も止めず。
それでもめげずに呼びかける。
「ねえ絶対オカシイよなんでメシんときにいちご牛乳なの!?なんで米といちご牛乳なの!?ねえ聞いてる準さんねえねえねえ!」
「あーうっせぇなてめえは!俺と前さんのすることに文句でもあんのか!」
胸倉掴む勢いどころか実際掴まれすごまれたとしても、譲れぬものは譲れない。
「だって!米にはお茶だよ!ソウバだよ!百歩譲って牛乳だよ!」
「利央に言われたくねぇよそんな顔して。何が相場だ。何が百歩だ。ねー前さん」
眉間の皺の瞬間消去が得意技、準太がくるりと前川を振り返る。
「なー。うまいのになー」
呑気に栄養摂取を続ける前川と後輩の胸倉を掴みあげたままの準太と、野球とは別のところで芽生えた仲間意識で、仲良く頷き笑いあう。
「なんか準さん態度違くない!?ていうか前さん聞き流したけどひどいこと言ったよね今!」
結局気にするところは飲み物よりも、先輩自体にずれてゆくのだ昼下がり。
牛乳は許せてもいちご牛乳は許せない仲沢さん。
米にはお茶だと誰より利央がこだわっていたらよいじゃないか。
そして一体こいつらはどこでお昼を食べているんだい。
米にはお茶だと誰より利央がこだわっていたらよいじゃないか。
そして一体こいつらはどこでお昼を食べているんだい。
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